
白岩大地さん:1993年生まれ。日本大学法学部卒業後、株式会社船井総合研究所を経て、2019年に兄・正樹さんが代表取締役社長を務める白岩工業株式会社へ入社。2025年に同社取締役 経営企画部長兼人事・総務部長に就任。「採用と教育で日本一」のスローガンを掲げ、業界随一の社員教育体制を整備。社長の意思を現場に反映させる役割として日々奔走中。
近藤:前回は、社長である正樹さんが24歳で白岩工業を継ぐ決断をされた経緯と、その後の会社の変化についてお聞きしました。今回は、2019年に入社された弟・大地さんの視点から、兄弟での二人三脚の経営について更に深掘りしたいと思います。まずは、大地さんの幼少期から教えてください。どんなお子さんだったのでしょうか?
大地さん(弟):本当に自分というものがない子供でした。兄の真似をして生きていたんです。小学生の頃も兄が飼育委員長をやっていたから自分も飼育委員長をやるという、そんな具合です。性格も得意分野も全然違うのに、一緒になろうとして失敗ばかりしていました。「自分は本当にダメだ」と思っていたんです。友人とも話が合わなくて、「自分に能力がないから話が合わないんだ」「自分が空気読めないからダメなんだ」と、否定的に考えてしまっていたんですよね。
高校卒業後の2年間は何に対してもやる気が出ず、同じように居場所のない仲間と一緒にいるのが居心地良かった。家には愛犬に会いに帰るくらいでしたね。夜中になったらまたどこか出て行くという、そんな流浪の民のような生活でした。でも今振り返ると、フラフラしていた時期があったからこそ、やる気のない時期がある人の気持ちもわかるんです。それは今、会社で若い人たちと接する時にも役立っていると思います。

近藤:仕事に熱い今の大地さんからは想像もつかないですが、そこからどのような変化があったのでしょうか?
大地さん(弟):とりあえずこの状況は抜け出そうと、大学進学はすることにしました。こだわりはなく、受験も1校しかしていません。「大学名に”日本”って付いてるから就職も有利でしょ!」といった感じです。けれどこの大学生活の中で、大きな転機があったんです。
2年生の時に、所属していたソフトボール部でキャプテンを頼まれました。「お前のけだるさが逆に良い」「何にも媚びない感じが良い」と周りが言ってくれたんです。そしてキャプテンという役割柄、いろんな人の相談に乗る機会が増えたんですが、人生の悩み、部活の悩み、人間関係の悩みなどを聞くうちに、相談に乗って喜んでもらえるのが純粋に嬉しいなと感じました。昔から人助けをするのは好きで。不真面目ではありましたけど、優しいとは言われていたんです。何者でもないと思っていた自分が、先入観なく話を聞くことで役に立てる。弱みが強みに転じた瞬間でした。
また同じ頃、先輩の誘いで学校内でも厳しいと有名なゼミに入ったんですが、ゼミの先生から「あなた今、周りと話し合わないでしょ」「周りと話し合わないところを、まず誇りに思いなさい」と言われたんです。最初は「急に何を言い出すんだ?」と思ったんですけど、でも元々すごい先生だったので、その言葉が心に残りました。
その後ゼミでマーケティングの論文大会に出て、僕が日本一を取りました。「自分にも得意なことがあるのかもしれない」と初めて思えたんです。そして「家業に戻る」という兄の言葉を思い出し、自分もちゃんと良いところに就職しようと、コンサルを目指すことにしました。大手の外資が「1年目は研修が手厚い」「きついイメージがあると思うけど大丈夫」などと言う中で、船井総研では「1年目から中小企業の社長とやりとりができる」「家業の2代目として飛び立って行く人は多い」と言われて。当時はもう家業を意識していたので、そちらに惹かれました。
正樹さん(兄):大学入学までの2年間は「大丈夫かアイツ」と思っていましたが、彼が船井総研に入社した頃から「結構心強くなりそうだな」と思うようになりました。実際に白岩工業に入社してくれたのは2019年10月ですが、その1年前から実は入社の話が出ていたんです。ただその時は、「まだ早い」と断りました。当時は自分がまだ取締役部長で、社内の信頼も立場も盤石ではなかった。彼が入ってきても苦しむことになる。まずは自分が専務になり、信頼という土俵を作ってから迎えたかったんです。能力のある彼は、その土俵があれば思いっきり暴れられる。周りも「あの専務の弟なら」と期待してくれる。お互いにとって、それが一番いい形だと思いました。
大地さん(弟):丸の内のうなぎ屋で「まだ早いぞ」と言われたのを覚えています。当時は母から「正樹が大変そうだから手伝ってあげて欲しい」という話をされ、それで兄に会いに行ったんですが、兄は「タイミングになったら声をかける」と。自分自身もまだ船井総研で手掛けていた重要な仕事がありましたし、ここで投げ出すのは違うという時期でもありました。その後兄が専務になり、自分も仕事の区切りがついた。機が熟した、という感じですね。

近藤:前回の正樹さんへのインタビューでも、大地さんの入社時期にまつわるお話が出ていましたね。満を辞して実際に入社されてみて、いかがでしたか?
大地さん(弟):入社直後は正直「やばいな」と思いました。兄の信念・覚悟・熱意は感じたんですが、現場に伝わっていなかったんです。トップが色々と考え尽力していても、その伝達ができる人がいないと会社は伸びていかない。トップの熱量を肌で感じ、本質的に理解して、自ら具体的な行動に変えられる理解力・行動力・熱意は誰にでもあるわけじゃない。中小企業はリソースがないのでなおのことです。
そこで自分の役割が見えてきたんです。「兄の意思を現場に反映させる役割」だなと。組織のその時々の状況によって、必要な役割は変わると思うんですよね。時期によって重点的に取り組む業務も、キャラクターも変えています。例えば少し前はプレイヤーとしてゴリゴリやる役割が必要だったのでそうしていましたが、今はどちらかというと組織作りが必要なので、そこに注力しています。塗り絵に例えると、兄は線を引いて僕が色を塗る、そんな感覚ですね。そういう意味では、自分自身が強いタイプの兄よりも、何色にでもなれる自分の方が、その役割が向いていると思います。
近藤:正樹さんには正樹さんの、大地さんには大地さんの役割があり、そこにお二人それぞれの個性がしっかりはまっているんですね。兄弟で経営されることについて、どう感じていらっしゃいますか?近い間柄だけに難しい部分もあったりするのでしょうか。
大地さん(弟):兄弟経営でやりにくいところは、何もないです。一緒に経営しているのに仲悪い兄弟って、客観的に見てかっこ悪いじゃないですか。仲良い兄弟というだけでブランディングできるんだから、そうしない理由がないんです。目の前の欲よりも、先にある気持ち良いこと目指そうぜ、という感じですね。僕らが仲良くしていた方が経営もうまくいく。結局全部、自分たちに返ってくるわけですから。
正樹さん(兄):全く同じこと考えてた、すごい(笑)。もちろん喧嘩はたまにしますよ。でもこの部屋で30分くらい言い合って、スッキリして終わりです。

近藤:他人同士だとそうもいかないかもしれないですけど、やはりそこは家族だからなのかもしれませんね。最後に、大地さんが採用・育成に尽力された結果、会社にはたくさんの若い世代の方がいらっしゃると思うのですが、その方たちにどのような思いを持っていらっしゃいますか?
大地さん(弟):谷に落とされるような経験がないと強くなれないとは思う一方で、這い上がるための薄いレールはないと辛いと思うんです。自分にはそれがあった。兄が先に入社して土俵を作ってくれていたから、僕は動けた。だから若い人にも、それは敷いてあげたいと思っています。
例えば業界の新入社員の平均的な研修期間は2週間ですが、うちは2ヶ月半かけて実践的な教育をしていきます。OJTではなく体系的育成を意識しており、資格も10個以上取得させ、内定者の段階から配属後まで、しっかりフォローしています。退職金や寮の完備などの福利厚生も充実させていますが、福利厚生で選んで欲しいわけじゃない。「20代の終わりにどういう人間になりたいか」そんな人生ビジョンから、白岩工業を選んで欲しいですね。
正樹さん(兄):最近は、人は何のために働くのかという哲学的な問いに関心があります。そこを追求すると、また見えてくるものがあるのではないかと思うんです。ハーバード大学の研究にもあるんですが、人間の幸せの原点は「ありがとう」なんですよね。なので例えば、うちの会社では社員に賞与を渡す際、家族への手紙を同封するようにしています。「いつもご主人を、奥様を支えてくださってありがとうございます」という内容で。その他細かいことだと現場へ出る社員に「行ってらっしゃい」と声掛けをすることもそうですし、自分たちが「必要とされている」という感覚で仕事をしてもらうことは大事だと思っています。会社として掲げている「社員が家族に誇れる会社、家族が社会に誇れる会社」を体現したいですね。
近藤:素晴らしいですね。お二人のお話を聞いていると、とても30代の兄弟には思えません。お二人のような若い経営者がいれば、日本の将来も明るいと思えて本当に嬉しいです。そして正樹さん・大地さんの根底に流れているのは、人間への愛なのではないかと感じました。それはきっと、ご両親からの愛情の賜物ですね。私自身も、これから仕事を通じてどう日本に貢献できるか、改めて考えたくなりました。今日は本当にありがとうございました。

All photo by 武川健太
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PROFILE 近藤有希
フェリス女学院高校、東京大学文学部卒業。大手通信会社を経て現在は外資系金融機関勤務。仕事やプライベートを通じて出逢った様々な人の人生に触れる中で、その人の"A面"だけでなく"B面"を知ることの面白さを実感し、本インタビューサイトb-sideを設立。2児の母として子育てもしつつ、大好きな仕事や、ワイン・ホームパーティ・ダイビングなどの趣味も継続。自分の姿を見た子供たちに「人生って自由で楽しいんだ!」と思ってもらうことが目標。