トレーナーズラボ株式会社 代表取締役 小川達也さん
小川達也さん:大学卒業後、22歳でスポーツジムの社員として就職。自身の所属していた店舗でパーソナルトレーナー事業を立ち上げ、各店舗への展開に尽力。その後38歳の時に兼ねてからの目標であったトレーナーとしての独立を果たす。数年後に縁あって発達障害児向けの水泳教室も開講することとなり、その後はパーソナルトレーナー事業と水泳教室事業を両軸に運営。2022年12月にトレーナーズラボ株式会社を創業し、現在はトレーナーも継続しながら水泳教室事業を拡大中。プライベートではイタリアン・グレイハウンドを1匹飼っており、休日には奥様と海辺を散歩する日々。
近藤 前回のパーソナルトレーナーとしてのお話に続き、今日は発達障害を抱えるお子さん向けの水泳教室事業について色々お伺いさせてください。トレーナーをされている中で、水泳教室を開講しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
小川さん これもご縁はトレーナーとして担当していたお客さんからでした。医師の方で「発達障害の子の為の療育センターを作りたい。その中のスポーツプログラムを、小川さんがやってくれないか」と打診を受けたのが始まりです。実は当時は発達障害という言葉もまだなく、学校の通常プログラムにつまづいてしまう子、という位置付けでした。最初の頃は当時所属していた会社から派遣されていく講師みたいな形でしたし、内容も水泳だけじゃなく、学校のそばの公園で遊んだりスポーツをしたりしていました。本業はトレーナーなので、ボランティア的な気持ちでやっていたんですね。
でも徐々に参加者が増えてきたのでホームページも整備し、内容も水泳教室に絞り、指導できるコーチなどを探し、60名ぐらいまで伸びました。そんな頃にコロナ禍になり3ヶ月ほど休業になったんですが、少し落ち着いて教室を再開すると、コロナ禍なのに更に参加する子供の数が増えたんです。当時は学校でもプールはやらないし体育だって限られた内容、部活もダメ。でも親御さんとしては運動させてあげたかったんでしょうね。「こういう状況でも営業しているということはちゃんと感染対策しているんだろう」とご理解頂けて、お子さんが増えていったんだと思います。元々1クラス当たり5人という少人数にしていたのも良かったのかもしれません。当時トレーナーとしての収入はコロナの影響で半減していましたから、これを機会に水泳教室事業を柱にしようと、ここ数年で相模大野、市ヶ尾に加えて立川、綱島にも教室をオープンしました。
発達障害を抱えるお子さんは潜在的にはどのエリアにもいると思うんですね。うちの水泳教室に来る子たちは、普通のスイミングスクールでうまくいかずに嫌な思いをしてしまった子が多いです。そういう子たちが通える場にしたいなと思っています。
近藤 親御さんとしても、そういった経験をしたお子さんが小川さんの教室で泳げるようになったり楽しく通えていたら嬉しいですよね。ちなみに色々なスポーツがある中で「水泳」教室に絞ったのは何か理由があるんでしょうか?
小川さん まず発達障害を抱えたお子さんの特性として「集中が長く続かない、空間認識能力が高くない、指示をすぐ忘れてしまう」などがあるんですね。その瞬間興味を持ったことをどんどんやってしまう傾向にあります。例えば、水泳を習う時間に水遊びを始めて、それに夢中になってしまったり。こういった特性を考えると、教室やグラウンドって空間が広すぎるんですよ。でもプールはコースに分かれていて、水もあるので空間としてはそこまで自由じゃないんですよね。お子さんがいるのは水の中だけなので、そういう限られたスペースの中でやると指示も入りやすいし、集中が途切れたとしてもその場にはいるのでどこかへ行ってしまうなども起きにくい。そういった部分ではグラウンドや教室なんかよりも安全で、教えやすいです。
もちろん、最初からルールを守るのが難しい子もいます。そういう子にも、親御さんと協力して繰り返しルールを伝えるようにしています。やはり必要な時にはきちんと指示を聞けるか、守れるかは大事なんですね。なので、勝手にプールに出入りしない、待つべき時は待つ、そういう約束を、家を出る前・施設に入る前・ロッカールームから出る前に親御さんから伝えてもらい、コーチに引き渡したらコーチからも同じことを伝え、最後に「約束守って頑張ろうね」の声かけにちゃんと本人の返事をもらいます。それでもやっている最中に約束を忘れちゃうことも多い。なので、親御さんとコーチの二人三脚で、繰り返し伝え続けるようにしています。
未就学児のお子さんなら、いずれ小学校へ行きます。その時にルールが守れることは大事ですよね。なので言い聞かせなくちゃいけないときは遠からずやってくると思うんです。小学校へ上がった後のことも見据えて、お子さんが将来困らないようにコーチと保護者の方で協力していけたらいいなと思っています。
近藤 水泳教室を通して、学校へ上がる準備にもなっているんですね。最後に、教室運営をする上で工夫されていること、特に大事にされていることがあれば教えてください。
小川さん やはり水泳教室なので、泳ぎが上達することは大事にしています。ある親御さんが、お子さんがクロールで25メートル泳ぐ姿をプールサイドから見て号泣され、「ありがとうございます、水に入れればいいと思ってたのに…」と言っていただいたこともあります。やはり上達すると親御さんも嬉しいですし、お子さんも嬉しいですよね。学校では支援級じゃないと難しい子でも、大人数は苦手だけど5人ならスムーズに指導を受けられる、というケースもあります。
あとは進級テストなども設けているんですけど、合格基準をあまり厳しくしないようにしています。多少フォームが違っても、距離を泳げたら合格にする。早くに認定書を渡して「頑張ったらできる!嬉しい!」と思ってもらい、水泳楽しいな、教室楽しいなという風に続けて通ってもらえれば、水泳の技術は上がっていきますからね。加えて、怒るべき時はあえてきちんと怒るようにもしています。お子さんは意外と分からないフリをしていることもあるんですよね、そうしたら自由にできるので。でも本当は分かってる。だからそういう時は怒るというのも大事な指導のひとつだと思っています。お子さんが周りの子を噛んだり叩いたりしてしまって他の施設では受け入れてもらえず、うちの教室に来てもなかなか治らないので親御さんが「時間を変えた方がいいでしょうか…」と気にされたりもします。そういうケースでも、まずはきちんとコーチが注意をする。その積み重ねかなと思います。
そして、ボランティア的な気持ちでやっているときから常に意識しているのは、絶対に教室が「なくならないように」ということ。発達障害を抱えるお子さんの特徴として、変化が苦手ということがあります。施設が使えなくなって教室の場所が変わったり、コーチが途中で変わったりすると、お子さんが混乱してしまうんですね。それがきっかけでお子さんが教室を続けられないこともある。なので途中で使えなくなるようなリスクがない施設を選んだり、コーチの採用もこだわっています。例えば若い大学生くらいのコーチだと就職を機に辞めてしまうかもしれない。なので子育てを機に現場を離れていたママさんコーチや、スポーツジム定年退職後の男性コーチなどを採用しています。そういう方はベテランでお子さんの扱いにも慣れているし、指導経験も長いので安心できますね。
もちろん続けるためにはきちんと収益を出し続けることも大事です。そのためにも、店舗を増やして事業拡大していきたいと思っています。教室に通っていたお子さん同士は特性のある子達だからか、一緒に過ごす場は安心・安全空間になるようなんですね。新しい場所とか人が苦手なので、馴染みのある子たちと一緒に居た方が安心する。なのでもう今は大学生や社会人になった教室の卒業生を集めて、今でも月一回一緒に映画を見たり、飲み会をしたり、気候の良いときにはBBQをしたりもしています。これからもこんな風に、教室を将来に渡っての憩いの場のようにしていけたら嬉しいですね。
近藤 そうですね。小川さんから卒業生の話を聞いた時、単なる水泳教室としての役割を超えた、お子さんたちにとっての特別な場を形成されてきたんだなと感じました。これからのさらなる発展が楽しみですね!前回、今回と2回に渡り色々と思いを聞かせていただいて、私自身がますます小川さんのファンになりました。ありがとうございました!
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PROFILE 近藤有希
フェリス女学院高校、東京大学文学部卒業。大手通信会社を経て現在は外資系金融機関勤務。仕事やプライベートを通じて出逢った様々な人の人生に触れる中で、その人の"A面"だけでなく"B面"を知ることの面白さを実感し、本インタビューサイトb-sideを設立。2児の母として子育てもしつつ、大好きな仕事や、ワイン・ホームパーティ・ダイビングなどの趣味も継続。自分の姿を見た子供たちに「人生って自由で楽しいんだ!」と思ってもらうことが目標。