辻光一さん:18歳より料理の世界を志し、国内数店舗で経験を積んだ後、2003年に渡仏。レ・カルトポスタル、キャレ・ド・フィヨンにて5年間に渡り修行。帰国後、2009年に奥沢にてフレンチレストランKOSTをオープン。その後も近隣にパティスリー、カフェ、ベーカリー、焼き鳥店等をオープンし、KOSTのシェフとしてお店に立ちながら、複数店を経営。地元に愛されるレストランを育み続けている。

辻さん:本当に大変です(笑)。一店舗だけの時は、問題があればその場で話し合ったり、閉店後に皆で食事をして結束を強めることができました。でも、店舗が増えると営業時間も違いますし、全員を集めて話すのは難しい。自分一人だけの力ではなく、ニ番手や三番手を育てていくことが大事だなと実感しています。今は各店舗に責任者はいますが、複数店舗を見ながら全体を繋ぐ役割を果たせる人はまだ育っていません。今後の課題ですね。

料理人として現場に立ちながら経営をする。大変だからなのか、それを両立している人はほとんどいないと思います。でもだからこそ挑戦したい。「誰もやっていないことをやる」その先にもっと良い景色が見える。そう思って日々頑張っています。

辻さん:昔からスポーツをするのは好きだったので、休みの日はサーフィンやゴルフをしていることが多いです。サーフィンは一人でできるので、自分の好きな時間に行けるのが良いですね。海に浮いているだけで心が落ち着いてリフレッシュされます。経営者という立場だと常に仕事については考えてしまうので、海の中や車移動中に無になれるのは貴重な時間です。その中で新しいアイデアが浮かんできたりもしますしね。

ゴルフは二年ほど前に始めました。元々はお客様との交流を深めるのに良いと思ったのがきっかけです。最初は交流どころじゃなかったですけどね、打って走っての繰り返しで(笑)。でもその後カートに乗れるようになった頃から思った以上にゴルフそのものが楽しくなり、一緒に回る人とも会話できる余裕が出てきましたね。

そんな感じで昼間はスポーツをして、夜は気になっているお店で食事をすることが多いです。仕事柄、他のお店の料理やサービスはやはり気になりますし、そこから学ぶことは多いですね。

辻さん:これは明確にあって、日本の料理人の社会的地位を上げたいです。フランスでは料理人は非常に尊敬される職業で、特にミシュラン三つ星レストランのシェフともなると、スターのような存在です。僕が働いていた二つ星レストランのシェフも、街を歩いていると道ゆく人たちから握手を求められたりしていたんですね。でも日本における料理人の立ち位置は、そうではない。

今の世の中には1秒で1億円を稼ぐような仕事もありますが、僕らの仕事はそういうものではありません。記憶に残る一皿を作るには、やはり時間をかける必要があります。でも、例えば人のニ倍の時間働いているとしたら、ニ倍の収入があっても良いんじゃないか。これは私だけの話ではなく、働いているスタッフにもそうしてあげたいんですよね。朝から晩まで働いている分ちゃんと報酬を渡して、良い生活をして欲しい。

日本は安くて美味しいものが多いです。これは世界的に見ても稀で素晴らしいことですが、価値に対する対価も認めてくれるような社会になったら良いなと思います。有難いことに、お店のお客様とそんな話をさせていただくこともありますね。皆さん応援して下さって、本当に感謝しています。

all photo by 武川健太

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PROFILE 近藤有希

フェリス女学院高校、東京大学文学部卒業。大手通信会社を経て現在は外資系金融機関勤務。仕事やプライベートを通じて出逢った様々な人の人生に触れる中で、その人の"A面"だけでなく"B面"を知ることの面白さを実感し、本インタビューサイトb-sideを設立。2児の母として子育てもしつつ、大好きな仕事や、ワイン・ホームパーティ・ダイビングなどの趣味も継続。自分の姿を見た子供たちに「人生って自由で楽しいんだ!」と思ってもらうことが目標。