大成裕道さん:日本大学経済学部卒業後、北海道の港湾物流業、横浜の教育事業会社を経て、プルデンシャル生命保険株式会社に入社。ライフプランナーとして年間100世帯以上のコンサルティングを実施する中で、日本における「金融」の捉えられ方や、様々な情報が溢れる社会に対し課題を感じ、2023年に金融教育の専門会社として合同会社フラタニティを設立。主に高校生向けに金融教育の講座を提供し、そのわかりやすさと本質的な内容が高い評価を受けている。

大成さん:きっかけは前職時代に小学生親子向けのマネースクールをやっていたことでした。それが驚くほど人気で、新聞やテレビの取材、指名の講師依頼も頂きました。そんなに強く社会に求められたことはなかったので、とても嬉しかったんですよね。

けれど同時に感じたのは、金融機関の営業という立場で講師をすると、参加者の親御さんと個別に話をしようとした時に「何か不必要なものを売られないだろうか」というバイアスを持たれてしまうということでした。親御さんからしてみれば、それは当然だと思うんです。でも、本当はお金のことをご本人がしっかり考えて、「具体的な策」を講じておかなければいけない。みんなそれぞれ、自分で責任を持つしかないんです。

なので、大人になる前に判断材料を得たり考える「基準」をつくる、そのための教育を中立的な立場から提供することが、実は最も大事なのではないかと考えるようになりました。世の中には「お金に関するリテラシーを上げよう」とか「NISAを始めよう」といった勉強会はたくさんありますが、私がやりたいと思ったのは、もっと“根本的な部分”です。

大成さん:2つあって、ひとつは個人的な課題です。多くの大人が「お金」を怖がっていると思います。程度は人それぞれですが、家庭内における前時代的な「お金の話はするな」いった雰囲気や、「よくわからないけどなんか怖い」といったネガティブなイメージを感じた経験のある方は少なくないはずです。でも、お金への向き合い方というのは、その人だけの問題にとどまりません。価値観は親から子どもに伝わりますし、その子どもから友達に広まったり、孫の世代にも影響が残るかもしれません。

問題は、なぜ怖いのか?ということです。私の答えは「判断材料(情報)を持っていないから」です。負のスパイラルとはまさにこのことで、怖いから調べない。調べないから怖いということが繰り返されます。これはなにもお金の話に限ったことではありませんが、要は個人が恐れずに情報収集をできる素地を、人生のどこかのタイミングで、半強制的にでも作るべきだと思いました。

もうひとつは、社会的な課題です。これは深刻です。高度に発達した情報化社会では、キャッチーで極端な情報ほど「売れる」ということが起こります。ときにはSNSなどで過激な言葉で煽られたり、過度に編集されたデータを示されたり、挙句の果てには無資格で実務経験のない顔もお名前も非公開の方が、お金の専門家を名乗っていたりします。こうしたことが、日常的に起こっています。そして最も恐ろしいのは、不安や恐怖を抱える人のもとに、検索ワードに応じてそれを煽るような情報が金融商品を売る側から提供される仕組み(キュレーション)が運用されているということです。金融リテラシーが低いと言われるこの国で、これはフェアではないと思います。

問題は、この構造はもはや変わらないということです。時代の流れに抗うことはできません。ではどうするか。それは、「個人が自分の頭で考える機会を増やす」こと、これに尽きると思っています。

私は30歳で会社もまだ2年目ですが、本当にありがたいことに、大手の代理店さんや記者さんがこの事業を取り上げてくださいます。こういうチャンスを掴んで、「中立的な立場」から情報を発信したいんです。でも、私たちも会社です。利益が出せなければ潰さなければなりません。だからこそ、中立を極めて、これを有償で教育機関に提供する。このビジネスモデルで日本の課題を解決し、人生に幸せと感じる人を増やしたいんです。お金なんて、単なる幸せの道具にすぎないわけですから。

大成さん:予想通り、とても満足度が高いです。効果は必ず数字で判断するようにしていますが、数百人を相手にするような大人数の講座でも、満足度が85%を下回ったことは一度もありません。唯一意外だったのは、生徒よりも先生方の評価の方が高いということです。先日ある中学校での授業の後、代表の生徒さんがこんな風に言ってくれました。「インターネットや周りの大人に聞いてみることはできるけど、こんな風にきちんとプロから勉強できる機会はない。たったの3時間だったけど、僕たちの人生を救ってくれた。」震えましたね。中学生がちゃんと受け取ってくれたんです。他にも、リピート率が極めて高いことも嬉しいですね。先生方から「来年もお願いします!」なんて言われると、今日も役に立てたんだと飛び跳ねたくなります。

でも、最近新たに気づいたことがありまして。重要なのは「感謝される瞬間じゃない」ということです。講義の後ってすごく良い雰囲気になるんです。生徒にも先生にも拍手で送り出して頂けて、それは儀礼的なものではなくて、ぽかぽかした温かいフォトンの中を通り抜けていくような感じがします。当然、めちゃくちゃ嬉しいです。感動します。でも、成し遂げたいことは、その先にあると気づいたんです。

良いお金の先生が来てくれた、有益な講師を招けた、そう思っていただけるだけでも十分に有難いことです。けれど、”本当に” 私がしたいのは、その数時間によって、生徒たちの実際の未来にきちんと「ポジティブな影響」をもたらすことです。この事業の価値は、その一点のみで計られたいと思っています。松下幸之助さんの言葉を借りれば、“好むものではなく、役にたつものを与えられる存在でいたい”。それを実現するにはどうすべきなのか、生涯をかけて、自分に問い続けていきたいです。

all photo by 武川健太 / 撮影協力:大和市文化創造拠点シリウス

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PROFILE 近藤有希

フェリス女学院高校、東京大学文学部卒業。大手通信会社を経て現在は外資系金融機関勤務。仕事やプライベートを通じて出逢った様々な人の人生に触れる中で、その人の"A面"だけでなく"B面"を知ることの面白さを実感し、本インタビューサイトb-sideを設立。2児の母として子育てもしつつ、大好きな仕事や、ワイン・ホームパーティ・ダイビングなどの趣味も継続。自分の姿を見た子供たちに「人生って自由で楽しいんだ!」と思ってもらうことが目標。